2013年03月22日

タランティーノについて

タランティーノの映画はすべて観ている。

1992年、「レザボア・ドッグス」。タランティーノの監督デビュー作であり、
今でも彼の作品の中では最も好きな一本。全編に流れるソリッド感、ムダに
長~いセリフ、ラストのドンデン返し、そしてハーヴェイ・カイテルの渋さ。
こんなカッコいいギャング映画ってあるのか!って打ちのめされた作品。

タランティーノについて

1994年、「パルプ・フィクション」。アカデミー脚本賞をとったこの作品により、
タランティーノは押しも押されぬ一流監督の仲間入りをしたといえるだろう。
あまりにもあっけなくジョン・トラヴォルタが死んでしまうトコが好き。
このシュールさとコミカルさの同居がまさしく、タランティーノ・ワールド。

1995年、「フォー・ルームス」。オムニバスのうちの1本を彼が撮っている。
タメにタメた長~いセリフのやりとりの後のティム・ロスのサイコーのオチ。
こんなんコントやん!」って思って大笑いしたのだが、なぜかその時映画館
でウケてたのは俺1人だった。なんで?あんなにオモロかったのに・・・。

1997年、「ジャッキー・ブラウン」。タランティーノにとっての永遠のアイドル、
パム・グリアー主演。彼女へのオマージュを、本人登場させて作っちゃった
ほとんど趣味の作品。確かに名作とは言い難いけど、当時いっしょに観にいった、
「何この映画。ワケわかんない。」つったおねーちゃんとはソッコー別れた。

2003年、「キル・ビルVOL.1」。2004年、「キル・ビルVOL.2」。実はこの時
までタランティーノ監督が、こんなにも日本映画と日本アニメとマカロニ・ウエスタン
が好きだなんて知らなかった。ソニー千葉からカンフーからスプラッタから・・・
もう何でもアリなんだな。ホント映画オタクなんだな。

2007年、「デス・プルーフinグラインドハウス」。盟友ロバート・ロドリゲスと
共に作った、ほとんどお遊び作品。でも映画をこの「お遊び感覚」で作れる人
ってホント少ないと思うのだ。ちなみに脚本を担当した「フロム・ダスク・ティル
ドーン」も、ロドリゲスといっしょにゼッタイ遊んでたし。

タランティーノについて

1993年に脚本を担当した、「トゥルー・ロマンス」も最高の恋愛映画だった。
はぁ?タイタニックだぁ?キャメロン・ディアスだぁ?・・・そんなことホザいてる
女子は観んでよろしい。そして監督のトニー・スコットには心からご冥福を祈りたい。

逆に途中で脚本制作から降りてしまった作品、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」は
バイオレンス映画における、稀に見る駄作となった。それもこれもすべて監督のせい
である。オリヴァー・ストーンなどという常識派の優等生に、面白いバイオレンス+
ラブロマンス映画が作れるワケがない。

タランティーノは、変態かつ、イっちゃってる人間だから面白いのだ。

作り手の人生が色濃く反映されるのが、映画であり音楽であり小説である。
幼少時にアウシュビッツで母親を殺され、ユダヤ人狩りから逃げ続け、その後最愛
の妻を狂信者に殺され、幼女への性的嫌疑で逮捕、アメリカからヨーロッパへ逃亡
・・・・と、激動の人生を送ってきた監督、ロマン・ポランスキーの撮る映画は
どれもいいようのない「よどみと悲しみ」に満ちていると思う。・・・・・「赤い航路
・・・いまだかつてこの映画を越えるピュアで激烈な恋愛映画には出会っていない。

タランティーノについて

さてそこでようやく本題。この度、「ジャンゴ~繋がれざる者」を観た。

2009年、「イングロリアス・バスターズ」以来となる作品である。ちなみに「イングロ」
はアカデミーで8部門にノミネート。クリストフ・ヴァルツが助演男優賞を受賞した作品
なのだが、俺はあんまり好きじゃなかった。
そもそもタランティーノみたいな人って、「永遠のサブ・カルチャー」的なポジションで
いるべき人。だからホントはアカデミーとか無縁でいてほしいのだが・・・。

しかし今回のこの作品はいいぞ
もうなんつーか、「200%タランティーノ節」!!ってカンジ。

レオ様観たさに映画館に足を運んだ女子どもはドギモ抜かれたことだろう。そのレオ様
の極悪非道な演技のスゴさに。迫真過ぎて演技中、グラスで手切って血まで出ちゃって
たから。実際映画館ではエンドロールが始まるやいなや、席を立って帰る輩が多かった。
よっぽど気分が悪かったんだろうな。少なくともカップルで観る映画ではないだろう。

ちなみに「パルプ・フィクション」では「FUCK!」というセリフが281回登場し、
この映画では「ニガー!」が137回耳に入る。それだけでも充分刺激的であるが、
さらに黒人監督、スパイク・リーは、
「この映画は我々の祖先に対する不敬だ」と黒人達に対し観に行かないよう呼びかけた。

確かにこの映画、徹底して奴隷制度当時の白人の非道っぷりが主に描かれてるが、
真のボスは黒人(サミュエル・L・ジャクソン)だったのだ。それに加え、エンディング
に近づくにつれ、かなりのダーティー・ヒーローに転じていく主人公・・・え~っ!!
そいつまで撃っちゃう!?・・・みたいな・・・・・
目には目を。暴力には暴力を。・・そのあたりがスパイク。リーは嫌だったのかな・・・?

でもアメリカの黒い歴史に、こんなにも正面から向き合い、痛快な一撃を加えた作品
があっただろうか?
この映画は「歴史」を背景にした「ラブロマンス」である。「復讐劇」であると同時に、
白人の自己批判も忘れない。けれどやっぱり全編を通じて流れるタランティーノ流、
激しすぎて笑える」カンジ。そう。そこなのだ。

激しすぎて笑える」と、「悲惨すぎて笑える」のがタランティーノの真骨頂。
(あと「切なすぎて笑える」のがコーエン兄弟の真骨頂。)

とにかく俺みたいな「後味ワル好き」や「カルトムーヴィー好き」にとってはたまらん
作品である。だって好きな作品のひとつに、ホドロフスキーの「エル・トポ
挙げるくらいだからね。

タランティーノについて

「ジャンゴ」とは、1966年公開の映画、「続・荒野の用心棒」の原題である。この
作品の監督、セルジオ・コルブッチに倣ってこの度「黒人版・マカロニ・ウェスタン
が完成したというワケだ。タランティーノが愛してやまないマカロニ・ウェスタン。
白人至上の正統派・西部劇ではなく、悪が悪を征し、毒を以って毒を制す、みたいな
マカロニの王道テイストに満ち溢れ、さらに本家の作品の主人公であった、フランコ・
ネロ本人までもがこの映画に登場してる!!う~やっぱたまらん!

ちなみに俺も小さい頃、マカロニ・ウェスタンが大好きだったのだ。クリント・イースト
ウッド
があまりにもカッコ良すぎたから、お小遣い貯めて買ったLPレコード。押入れの
中にまだあったよ。(俺が好きだったのはセルジオ・レオーネ監督の方。王道の方。)

タランティーノについて

・・・・・そういえば思い出した。よくばぁちゃんが言ってたわ。
マカロニは、よ~け血が出るで、キラい。」

確かにそーだった。子供の教育にはあんまし良くはないわな。でも今回この映画
にこんなにもコーフンしたってことは、やっぱ心のどっかに残ってたんだろう。
悪を暴力でたたきのめすことで生まれる、カタルシスが。

とにかく「ジャンゴ~繋がれざる者」は数あるタランティーノ作品の中では1,2を争う
名作であることは間違いない。ここまでテーマとメッセージ性が詰まった作品は今まで
なかったし、タランティーノの円熟味と、相変わらずの遊びゴコロも両立して感じられる
内容である。。またこの映画、っつうかタランティーノ作品には総じていえるのだが、そこ
かしこに映画オタクである彼のお気に入り作品からの影響や引用に満ち溢れている。

☆冒頭の雪のシーンはセルジオ・コルブッチ監督の「殺しが静かにやって来る」の影響。
☆主人公の2人が最初に入る酒場の名前が、同じくセルジオ・コルブッチ作品と同名の
ミネソタ・クレイ」。
☆壁に貼られた指名手配犯の名前が、アメリカ初の西部劇「大列車強盗」の監督、
 エドウィン・S・ポーター。
☆舞台がミシシッピに変わる際に、「風と共に去りぬ」を思わせるタイトル・スクロール。
フリッツとトニーという馬も、往年の西部劇の大スターの愛馬の名前。
☆リチャード・フライシャー監督の「マンディンゴ」なんて、そのまんま登場。

・・・・・などなど。こういうのを細かくチェックしていくのもタランティーノ作品の楽しみ方の
ひとつなので、映画が気に入った方はパンフを買うのもお忘れなく。

タランティーノについて

というワケで、「一見社会派の映画に思われがちだが、実はただ撮りたいものを
撮っただけ
」なこの映画、相当面白いので俺的にはかなりおススメしたいと思う。
ただし!キライな人はキライ、なのがタランティーノ作品の特徴だからね。その点は
注意!

長くなっちゃったけど最後にもうひとつ。タランティーノや園子温監督が好きな人
たち(要するにちょっと変わりモノ)におすすめの作家がいる。・・・樋口毅宏

テイストはタランティーノに似てて、ハードかつバイオレンス満載。
ただ、この人の文章は非常に美しい。そしてもうひとつの特徴が、引用文を多用し、
読者に「あ、このくだり・・・アレね!」って思わせる手法(本人曰くサンプリングを
多用する「ヒップホップ的」手法)が多いということだ。このあたりもタランティーノ
に通じるところだと思う。

タランティーノについて

この人の小説も全巻買っちゃった。おすすめは「さらば雑司ヶ谷」「テロルのすべて」
かな?全部おもしろいけどね。「日本のセックス」なんてめっちゃ深い作品だよ。
・・だから何故この人がもっと注目されないのかが不思議だ。もっと売れてもいいのに。

まぁでもタランティーノが永遠にスピルバーグになれないのと同じく、この人も
東野圭吾にはなれない、ってことか。・・・いいよならなくて。
ファンとしてはこの先ず~っと「駄作を生み出す巨匠」より「常にシャープな気鋭
を求めてるんだから。

このどんより生暖かい時代に、これからもかまいたちの様な風を吹かせ続けてくれ!
頼んだよ!樋口さん、園さん、タラちゃん!!



この記事へのコメント
こんにちは。数々の名作はアカデミー賞受賞にその候補等々、様々です。最近名画から遠ざかっている私には、昔の思い出の如しです。
Posted by 遠州源氏虎朝(トラトモ)こと森田悌裕(トモヒロ) at 2013年03月22日 11:32
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